秩父昇天記(11)

ここは三峯山頂の宿坊6階、その早朝。


0430ごろ、小砂利をがしがし言わせる音が下から聞こえる。どうやら雲海ツアー一党が押し寄せてきたようだ。いつもの習慣*でこの時刻には起きている九去堂ゆえ、これも見ものの一つと見物にかかる。一党はバス2台分ぐらいのかたまりごとに。


引率されて境内をうろうろする。カタマリ3つ分程度が長々と、大蛇の如くあちこちうねる。来ましたねとSくんも起きた。そろそろご祈祷の時刻でもあるらしい。次第に夜が明けていく。中天には月、星はよく見えないが、今日は雨が上がるようだ。


Sくんはご祈祷に行き、この九去堂は二度寝を決め込む。ややまどろんだ後、思い立って起き出した。Kくんはまだ寝ているらしい。朝風呂でも一発と用意をする。武道の心得でなるべく音を立てないように。そして、階下の風呂に向かう途中の窓に。

わわわわ、わわ。


もう武道も何も切っ飛ばして部屋に飛び帰る。起きなよKくん!! かわいそうかも知れないが、知らせない方がよほどかわいそう。すごいよ!! ビノとスマホ持ってきな!! Kくん不服も言わず用意して、件の窓でうはーと言う。私もも一度うむむと言う。



時と共に、この光景は刻々と変わる。なるほどツアーが組まれるはずだ。


ほぼ時を同じくして、Sくんは遙拝所でこれを見ていた。


スマホで撮ったりビノで見たりしていたKくん帰る。この窓、横軸の回転窓で、留め金が壊れており我がおお頭で支えるしかない。そうして見ている私の所に、どこぞの団塊ガキがやってくる。何やら言いながら、勝手に窓から首出し眺めている。あのな。


雑民は油断多き者どもゆえ、気が付かぬのは仕方がないが。九去堂がスッと大あたまを引けば、あんたその首チョンパだよ。と心で思ってもういいですかと口に出す。団塊ガキ去ってさらに眺める。うむ、神域かつこの雲海。まさにここは天上界。


すっかり堪能して朝湯に行く。雲海は脱衣所の窓からも眺めることが出来た。部屋に戻るとSくんも戻っていた。やや興奮気味に雲海話をする。私の無信仰を知っているSくん、昨日控えめにここをパワースポットと言った。なるほどこういう事なのね。


雲海とは反対側だが、晴れた空を部屋より眺める。自然そのままの山ではないが、人の手により清々しく整えられても居る。いつか疲労困憊の時が来たら、いっそここに籠もろうか。こんなところに一ト月も居れば、心も体もすっかり元気になろう。


お茶飲みますかとSくんが淹れてくれる。飲み終えた卓上は濡れている。昨夜気付いたことではあるが、私のマスにはスキマがあったのだ。取り替えて貰いますかとSくん。いいや、これもまたよし。わざと漏れる、利休の名器も世にはあることだし。


オジ一号さんの放送があって朝食に行く。少量ではあるがやはり美味しい。普段無いことに、めしをおかわりしたほどに。そう、確かに心身が、この時間違いなく健康であった証拠。信仰に治癒はつきものだが、良い山良いメシ良い風呂と、ここ三峯は。


含まれている有効成分が多い。イヤ、素直に神さんを拝めたらその方が良いのかも知れない。昨夜もそうだったが食堂では、不作法者が居ないことを、そう言えばSくん指摘していた。太古の修験者はさすがにも、こういうお山に気付いたわけだ。


食事を終えて部屋に戻り、こもごも下界に帰りたくないね~と言い合ったりする。清々しい空気にこの青空、そして山上ならではの涼しさ。さぞ下界は暑かろう。急ぐ旅ではないしチェックアウトにも間があるが、去らねばならないのが何とも残念。

まことにこの国は恵まれている。


時を惜しんで景色を眺めた。


*いつもの習慣:東京商品取引所の夜間取引終了は、現在早朝4時。

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