秩父昇天記(10)

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さて美味な夕食を堪能したワシらだが。

この九去堂は酒鬼、Sくんは酒豪、そしてKくんもなかなかイケるという。ただ酒が正直に顔に出ちまうので、三田*1あたりの名物オヤジ店では、醒まして来いと追い出されたらしい。だが今夜はその心配はない、早速くだんの徳利を開けるとしよう。


ところがこれがなかなか開かない。Sくんああしたりこうしたり苦労する。こんなこともあろうかと、私はビクトリノックスを取り出す。ねじ込んで回してみるがあれれ、コルクをもいでしまった。再度Sくんに返してまた私に戻って。ついに中に込めてしまう。


まあいいや呑んじゃえということになった。早速Kくんにお酌して貰う。芳醇な香りに思わず顔がほころぶ九去堂。この酒は当たりであろうとよだれを垂らしているのだ。普段偉そうなことを言ったり書いたりしておきながら、どうにも酒にはだらしない。


次いで徳利はSくんに回る。学生の頃からSくんには貫禄があり、川重三ツ商あたりの若重役の風格があった。対してKくんのおとなしさは、男にも好かれ女にも好かれよう。事実そうであるようなのだが、私とつるんでていいのかしらと思うリア充ぶり。


実は最初に酒を受けたのはKくん。すまんねKくん、私とSくんだけソファに座って、と。反社勢力との杯ごとですねとSくん笑う。はーはっはっはっは、高級官僚相手に悪の親玉になったようで、私が気分良く高笑いする。さて、天上の夏休みに乾杯!


早速な事に杯盤狼藉。Sくん買ったタバコを取り出して、Kくんもやりなよと差し出した。互いに話が様々出る。ここに書けないことももちろんあった。書けることと言えば一つは将来の見通し。自分が何したいかまだわかんないんですよねと若者Sくん。

ここはオヤジの出番であろう。あーそれはだねSくんやと、昔の漢詩を例に出す。

お前ら、勉強しろ!!*2
金持ちに成りたきゃ土地なぞ買うな
本読みゃバカスカ儲かるぜ
いいトコ住みたきゃ家なぞ建てるな
本読みゃサクリと御殿が建つぜ
三次元の嫁が来ねえって泣くな
本読みゃ美人ネエちゃんうふ~んだぜ
執事や運転手いねえって嘆くな
本読みゃロールス・テスタロッサだぜ
オイお前も男なら
目ェこすって徹夜で勉強しろい

勉強しろいは今でもそうだし、Sくんも九去堂も今なお勉強漬けの日々を送るが、要するにやりたいことなんて、お金を稼いでから考えればいいよ。持ってるカネの分だけ、出来る事なんて拡がるんだからさ。傍らでフムフムと干ししじみを囓るKくん。


そんな時を暫時過ごす。と、ちょっと出かけてきますと、SくんKくんを連れて外に出ようとする。夜回りに行くらしく、傘の他にはスマホしか持ってない。オイ財布持ってけと私が声を挙げる。オレが悪党だったらどうするんだ。両人笑って戸を閉めた。


二つの財布が残された。信用ある自分は悪くはないが。不用心だな-、大丈夫かしらんと心配にもなる。SくんもKくんも巨大組織を背負って外に出、中にいるから、世間にはどんなにとんでもないクズどもがうようよいるか、分かりづらいかも知れぬ。


しばらくして二人が戻る。明日早朝、雲海ツアーなる西武の企画で、甲乙丙丁がわんさか押しかけるとSくん言う。うはー、団塊かー。団塊ですね-。対してKくんはもちろん話を合わせてくれるが、団塊がいかに凶暴でこの国のガンかは不案内。


いいかい、団塊ってのはね。標高1100mの山頂とて、窓を開ければ清く涼しい空気。愛用の半纏羽織った九去堂だが、どうやら酔いが回って説教モードであったらしい。酒つぎの顔とはえらい違い、みっともない。心より遺憾の意を表明致します。

こうしてお山の夜は更けていき。


おのおの用心の黄蓮解毒湯服んで寝たのであった。


*1三田:医学部薬学部なんぞ備えやがって、実にけしからぬケイオーの本拠地。

*2古い漢詩:一応元漢文読みとして意地を張っておこう。

宋真宗御製「勧學文」

富家不用買良田 書中自有千鍾粟。
家ヲ富マスニ良田ヲ買フヲ用ヰズ
書中、自(おのづか)ラ千鍾(しょう)ノ粟(ぞく)有リ。
安居不用架高堂 書中自有黄金屋。
居ニ安ンズルニ高堂(たかどの)ヲ架クルヲ用ヰズ
書中、自ラ黄金ノ屋有リ。
娶妻莫愁無良媒 書中有女顏如玉。
妻ヲ娶ルニ良キ媒(なこうど)無シト愁(うれ)フル莫(なか)レ
書中、女ノ顏(かんばせ)玉ノ如キ有リ。
出門莫愁無人隨 書中車馬多如簇。
門ヲ出(いず)ルニ人ノ隨(したが)フ無シト愁フル莫レ
書中、車ト馬ノ多キコト簇(やじり)ノ如シ。
男兒欲遂平生志 五更勤向窗前讀。
男兒(だんじ)平生ノ志ヲ遂ゲムト欲サバ
五更ニ勤メテ窗前(そうぜん)ニ向ヒテ讀メ。
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