秩父昇天記(5)

ゼニ神社を出て雨中をSくん号が行く。

荒川は増水している。ここにドボンと飛び込めば、おロクとなって東京に帰れよう。下流の長瀞下りも、今日は休業らしいけしきを先ほど通過した。時刻は正午前、この先にシカ肉を食わせる道の駅があるとSくん言う。うむ、あれはうまいものだ。

この九去堂は全国を経巡り食い道楽した。小笠原でウミガメ、沖縄でヤギ刺し。むろんシカ肉も北海道で食っている。その他トドも、行き行きた知床のトドのつまりで食いもした。これらの中ではシカの焼き肉が一番うまい。あれは確か阿寒湖畔だったか。

トドはどうなんですとSくん言う。あれはうまいものではないと答える。イルカ・クジラの類もそうだが、海獣はどうもニオイがきつい。ゆえに砂糖醤油にぶっ込んで、ぐつぐつ煮てしまうしか食いようがない。そういえばクマもそうしたものしか食ってない。

と、台湾料理屋を通過する。彩の国で流行っているらしい。だがやってるのはチュコクチンで、出てくるのも台湾料理なんか一つもないとSくん言う。サムスンがロゴを消したらポンニチで売れたのと同じ理屈。だが常民には料理の区別なぞ付くわけがない。

商売と言葉には詐欺の要素がある。ゆえに付け札はどうあろうと、食い物は自分の舌で食ってみるしかない。伊豆○の如きふざけたうなぎ屋が、チュコクの回し者が持ち上げたせいで鼻高々のように。ゆえに台湾屋でうまい麻婆豆腐食うのも良かろう。

道はますます山に入っていき、雨はいよいよ降りしきる。すまんねワシは雨男でね、と謝る。じゃKくん来たら晴れますかねとSくん言う。二人並べばどう見ても、Kくん神族九去堂悪魔。よろしい、インドの阿修羅はイランの神族。善悪の境は他にある。

秩父鉄道の踏切通過。おっ、ここ前回泊まった宿の近くじゃないか、と聞く。そうです流石はバイク乗りですねとSくん言う。確かにその記憶領域は広いようだ。その近くに道の駅。小さなもので、宗谷岬の如きいらはいジャンジャンが無いのがよろしい。

食わせ物屋に入るとそのへんのおばちゃんがわだかまり、こなへんの料理を出すという。Sくんはうどんを、私はキノコ天丼を注文する。雨に追われた客がちらほら来る。団塊が居ないのが喜ばしいが、地元オヤジがすだき溜まって駄弁ってもいる。

今日はSLが通るという。だが気付けば通過して煙だけ見えた。Sくんうどんが先に来る。伸びちゃ気の毒ゆえどうぞと勧める。思い立ってシカ肉角煮とノンアルビール。食えば遺憾ながら砂糖醤油で煮ちゃった奴で、シカだかカツオだか分からない。

そうこうするうち天丼来る。確かに腹が減っていた。わずかにシカ肉も載っている。そしてこんなものだろうと腹に収める。いくら秩父の山奥とて、毎日じゃんじゃんシカが獲れるわけがない。煮染めちまうのも無理無い話。もっぺん北海道でも行くか。
自分で行ったことないんですよねとSくん言う。なんならいつでも付き合うよ、現地で車借りてさ、と私が言う。そうですね、時間さえあればですね。そう思えばこれまでの自分、いかにわがままに生きてきたことか。例えば勤め人に小笠原は無理だろう。
ただの二三日では、北海道は面白くもないしうまいものも食えない。おが丸で父島往復だけでも一週間かかる。もう今は無理だが、貨物船便乗で海が荒れれば一ヶ月だ。そんなことばかり二十代からしてきた。つくづくこの九去堂は常人ではない。

傍らに食うてしもうたシカちゃんの図。

互いにノンアル飲み終え外でモクを吹かす。

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