(29):宇宙旅行

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ここは名寄市天文台きたすばる。
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入り口脇の受付で¥400払い、ここを楽しみに北海道に来ました、と私が言う。それ聞いて休んでいた職員さんの一人、キリリとネクタイを締め直して立ち上がった。
北大の佐野康男先生だ。普段はここ名寄に詰めて、天文台設備の世話をしておいでらしい。
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※星像は先生撮影/アストロアーツ掲載より
先生は超新星ハンターでもあって、武勲キラキラの名刺を頂いた。
ここ名寄市立天文台は、北大名寄天文台と同居している。別棟のドームに入った大学の1.6m大型鏡は今夜、観測で運用中らしい。
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画像出典:天文台HPより
さて私は先生のご案内で、一般開放スペースの観測機材を見せて頂く。
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お好きな私にはたまらない。
これらの望遠鏡、ほとんど手作りだと言う。もちろん、反射鏡こそメーカーに頼んだり、京大がロシアに発注して持て余してたのを引き取ったり、といったところらしい。
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しかし架台や鏡筒、制御機器などは、先生方や学生さんたちが、ドリルと半田ごて持って作ったという。
名寄は観測には絶好の地だと言うが、その代わり冬の寒さが厳しく、わずかな温度差が星の画像をゆがめる。ゆえに床の構造1つとってもみなで工夫し、しかも乏しい予算の中で、最善の設計がこらしてあるという。
s-P9050799.jpg 名寄天文台屋上観測室
※右画像出典:天文台HPより
う~む。ボクちゃん理学専門だもんね~、では、天文学者はつとまらないようだ。
先生お1人、いや時にお2人に見物人は私1人。なんとも贅沢な時間ではないか。また先生のお話しぶり、まことに丁寧で、広く天文学を知ってもらいたい、という熱意にあふれている。
書いてきたように今日もまた、空はべったりと曇っている。ところが別の職員さんが駆け込んできて、雲に切れ間が、という。ではいきましょうか、と先生がスイッチを入れると…。


屋根が開いた。
名寄の夜景の上、確かに雲の切れ間が見える。持ってきたわずか18mmのツアイスでそこを覗いても、砂粒のように、星々がきらめいているのがわかる。
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そこへ先生が操作して、巨大な望遠鏡でさらに見せていただく。私ごときアマチュアには、決してみられない宇宙の奥深くだ。
そうして観望を楽しんでいると、別の職員さんがやってきて、プラネタリウムの用意が出来た、と言う。先生にお礼を申し上げ、職員さんに伴われてドームに行く。ここも見物は私ひとり、これまた贅沢な時間だ。
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職員さんは以前、神奈川や多摩で観測なさっていた、という。独り占めならではのそうした時間を楽しみつつ、プラネタリウムを堪能する。
最近のプラネタリウムでは、その長所を生かしたオリジナルの映画を上映することが多い。こたびの上映はETERNAL RETURN EPISODE1
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なるほど映画館よりもさらに大きく、しかも見ている者をぐるりと囲む映像は迫力がある。
すっかり堪能した。お礼を申し上げて再び屋上の観測室へ。
先生におねだりをして、アルビレオなどを楽しんでいると、黄な声が上がってきた。真っ暗で何も見えないが、どうやら若い娘のグループが、見物に来たらしい。声からして高校生か、大学生ぐらいか?
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光と言えば星明かりと、はるかな街明かりしかない暗闇の中、時に著名な天文啓蒙家の名を呼び捨てにしながら、キャピキャピはしゃぐ娘ども。どうやら渡部先生のセミナーかなんかに、行ったことがあるようだ。あの星はね、もう無いかも知れないんだよ。でもね、と佐野先生は彼女らに、それでも熱心に星の話を伝える。まぁ、ナントカの不対称というやつだが、頭の下がることだ。
先生は私に、ほら北極星をご覧なさい、とおっしゃる。
名寄星空
※現地当夜の北天を、つるぷらで再現
おおー、と私は声を上げた。南国鹿児島ならば、北辰斜にさすところ、と歌われる北斗七星が、緯度ゆえに高く見える。カシオペア座とおおぐま座が北極星を囲み、共に見える景色は北の大地ならではだ。
その空の下、かに星雲*に焦点を合わせた望遠鏡を、代わる代わる娘々が覗いている。天体写真では左のように写る星雲は、肉眼では右のように、暗く青っぽく見える。宇宙の一大構造が、微細な細胞の構造そっくりだ。
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私は先生が彼女らにしていた話の接ぎ穂とて、距離の断絶についてご意見をうかがう。宇宙は余りに遠くて、どんなに開発しようとしても、人間の手に届かないのでは? …私は楽観していますよ、と先生。うむむ。加えて楽天的でもないと、天文学者はつとまらないようだ。
そろそろ22時近い。いつまでもここにいたいのですが、明日は遠くまで走らねばなりません、どうも先生ありがとうございました、とお礼を申し上げる。それにつられて娘どもも頭を下げる。どういう分けか、私にも下げた。
いや、良い夜であった。ねぐらに帰って、じっくりとこの日の幸福を喜んだ。

(2217)
雨中旅行にして宇宙旅行。この紀行の題を、うちゅう旅行としたゆえんである。
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*かに星雲:つるぷらでシミュレートすると、M1かに星雲は私が天文台を出た1時間後に、東天から上がってきたことになる。従って私の記憶違いの可能性が高いが、フィラメントを伴ったガス星雲であったことは、はっきり覚えている。

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