(23)


シンガポールのラッフルズホテルを出たら、外は相当に暗くなっていた。スコールの予兆かも知れん、もう帰ろうかなとも思ったが、時刻はまだ15時半。じゃ、さっき入り損ねた、フォートカニングパークの地下壕に行こう。
わざわざ通りの反対側に出てタクシーを拾う。むろん、早く安くを考えてのことだ。乗ったのはマレー系の運転手が転がすちょっと汚い車。日産だったかな?
場所を告げて走り出すが、どうもこの運ちゃん、ヘンなところへ走り込む。規制の厳しいシンガポールでは、悪い運ちゃんはあまりいないと言うが、それでも油断はならない。

距離は直線にして1キロと行ったところだから、そんなヘンなところに入っていく必要はないのだ。案の定この運転手、丘に上がったあたりからおかしな角を曲がり、丘を降りてしまう。
運ちゃん、お前ェシロートだな。聞けばシンガポールでは車の保有税が目の飛び出るほど高く、運ちゃんの多くはマレーシア人で、毎朝ジョホール海峡の橋を渡って出勤してくると言う。
ここで私、やや不機嫌な声で、一旦戻れと英語で言う。そこを曲がれと指示しつつ、地下壕=バトルボックスの前に着く。支払いの段になって済まなさそうに、端数をおまけしてくれたが感謝する気にはなれない。
地下壕の番小屋に入ると、さっきと同じおばはんがいて、なにがしかの金を払う。いくらだと聞けば5ドルというのでそのまま払ったが、料金表を見るとそりゃコドモ料金だ。なんでだろ?
入り口に向かう。英兵のろう人形がお出迎え。あーご苦労ご苦労。日本兵が攻めに来ましたよ。

階段を下りると、こっちへ曲がれとまた英兵がいる。

顔つきは立派だが階級章を付けていないので、兵隊だか士官だかが分からない。
地下壕は10あまりの部屋で出来ていて、順番にそれらを覗いていく。フラッシュをたかずに撮ったからあんまりよくは見えないが、日本軍に攻められて頭を抱える、パーシバル将軍以下の連中が、ろう人形で再現されていた。

うぉぉぉぉぉあの野蛮人どもめ! なんでまた、オレの時に!
まーあきまへんな。はよう降伏しなはれ。

援軍は来ないのか! 援軍は!
え~こないだ、戦艦2隻とも沈められちゃいました。

何だって? ジェネラル・ヤマシタが乗り込んでくるって?
もうわやでんがな。ワシらこの紅茶飲んだら逃げますさかいに、将軍だけで行っておくんなはれ。
…てなところだろう。
しかしこの大騒ぎの中、黙々と書類に向かっているおっさんもいた。

ご覧の通り地下壕はどこも薄暗いのだが、一角だけ、煌々と電気がともっている場所がある。これすなわち、日本人というのがいかに野蛮で、残酷で、卑劣なサルどもであるかを、これでもかこれでもかと宣伝するコーナーだ。

その説明を、英人とおぼしき白人の家族連れが、熱心に見ている。
はっはっはっはっは。
え~、ただ今ご紹介にあずかりました、野蛮で卑劣な日本人が参りましたよ。

そんな事を頭の中で言いつつ、バトルボックスを去る。
時刻は16時過ぎ、さ、最後にどこ行こうか。

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