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今は現地時間の11時。シンガポールのアラブストリートは、いまだ閑散としている。

と言うより、これが当たり前の、普通のまちの姿なのだろう。やたらと人が出歩いている方が、どうかしているのだ。
店の作りはアラブと言うより、むしろご当地らしく東南アジア風味だ。売っているものは絨毯とか、シルクとか。店員はと見れば、こちらは東南アジア系ではなく、はっきりとこりゃアラブ人だとわかる顔つきをしている。まぁ、私はナチの御用学者じゃないから、顔見て人種国籍をぴたりと当てるわけにはいかないけどね。
ここでは珍しく、客引きに会う。しかしそれほどしつこくもない。偉そうにしていれば引き下がるし、声もかけては来ない。李首相は、アラブ系を躾けるのにも成功したようだ。
てくてく歩いてこの通りを抜けると、ぽん、と大きな建物が現れる。これが目当ての、サルタン・モスクだ。

大きな葱坊主のドームは、金色に塗られている。ただしあまり磨きがよくないと見え、ぴかぴかではなく若干黒ずんでいるのは残念だ。
そういえばと東京人として思い出すのは、バブル期にフランス人にだまされて、アサヒビールがおっ建てた浅草の空飛ぶ○ンコだ。あれはどうなんでしょうね、磨けばますます目立って恥ずかしいし、磨かねばくすんで、ますます○ンコに見えるし。

wikiより拝借。「炎のオブジェ」はフィリップ・スタルクによってデザインされたもので、躍進するアサヒビールの心を象徴している、だってさ。いかにもコーコクヤが言いそうな、人をたぶらかす物言いではないか。
さてこのモスクは、1928年建立の、シンガポール最古のモスクであり、私のような異教徒にも拝観を許している。真(まこと)に寛容なお寺である。実のところ私は異教徒でさえなく、そもそも無宗教なのだが、それをムスリムに表明すると人間扱いされないから、今日のところは黙って仏教徒のふりをしよう。
さてこんにちはと門を入ると、入り口らしきものは見あたらない。その代わり、ムスリムが礼拝の前に、体を清める水浴場がある。

イスラムの教えでは、体を清めることはいいことで、特にお祈りの前はきれいにしなさいと神様がおっしゃったらしい。それゆえ、古代ローマ帝国の領土を引き継いだとき、イスラム教徒はローマのお風呂も引き継ぎ、今も中東では銭湯が盛んだという。ローマの後裔を自称するヨーロッパ人が、ローマ滅亡以降つい最近まで、風呂にも入らず汚ったねえ格好で、一生涯、クサ~いまま過ごしたのとは対照的だ。そりゃペストにもかかるわな。
さていずれにせよ、私はムスリムではないから、この洗い場からお寺に上がるわけにはいかない。どうしようかしらと門まで戻ると、異教徒の拝観はあっちの門から入りなさい、と英語で書いてあった。ところがその門に至る道は工事中。やむなくアラブストリートを戻り、ごちゃごちゃした横丁を回って、大きく迂回して入り口を目指す。

ご覧の通り裏路地だけあって、さすがに汚い。ただし、こういった汚い路地につきものの、クサい臭いがしないのはさすがにシンガポールである。気温が高いから清潔を保つのは、なお一層たいへんだろう。
ややあって門に至る。入り口で靴を脱ぎ、芳名録?に名前国籍を書く。聖域だから顔以外の肌を露出する格好は御法度で、短パンなんぞを穿いた白人には、フードの付いた水色のケープが貸し出されていた。
中に入る。

さすがに見事な造りである。正面の入り口からむこうは、お祈りをする回教徒しか入れないが、それを取り囲む回廊には、観光客も入ることが許されている。
正面にかかった電光掲示板は、メッカはじめ、各地の時刻を示す時計らしい。
別の方角から。

突き当たりにくぼみがあり、ははぁ、これがかのミフラーブだなと眺める。すなわち、メッカの方角たるキブラを示すくぼみだ。色遣いはイスラムらしく、緑色が主体になっている。
回廊を回る。

お昼のお祈りまでは、まだずいぶんと時間があるから、中は閑散としている。いるのは気が早いのか熱心なのか、一人で座って本を読んでいるおじさん一人。
ミフラーブの隣には説教段があった。やはりこのモスクにもウレマー*がいて、お祈りの後とかにお説教をするのだろう。それと時計と本棚。お祈りの時間に厳しく、何かと勉強を勧める**、イスラムの教えらしいしつらえと見た。
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*正確には、などと言い出すときりがないが、要はイスラムのお坊さんである。
**始祖ムハンマドが、「世界の果てまで知識を求めよ」と、みんなにそう言ったらしい。さすがは商人としても大成功した人である。ローマ帝国と戦いながら、イスラム世界が当時の世界最高の文明社会を作り上げたのは、この影響だな。
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私はモスクを訪れるのは初めてだったが、以前よりぜひ見てみたいものだと考えていた。しかし異教徒には厳しそうだから、それはまぁむりでしょうとあきらめていたのである。その願いが思わず叶って、心ゆくまでこの景色を楽しんだ。
さて、それでは外に出て、このまちでのもう一つのお楽しみといこう。

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