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さて国会議事堂から通りをまっすぐ歩いて、3時前には宿に帰る。朝方は体調にやや不安があったものの、歩き出してしまえばこの通り、ずんずん歩く。案外元気じゃん。
ひとっ風呂浴びてからたばこを呑みに外に出る。
ここシンガポールでも、たばこ呑みはいじめられているのだが、その分、まちのあっちこっちに灰皿がある。禁止するだけ禁止しておいて、何の手当もしないポンニチは、やはり下らない政府…中央にせよ地方にせよ…を持っていると心底思う。

歩いただけあって少々腹が減った。何か食いに行こうと地下街に入る。

シンガポールは先進国を自認するだけあって、店の作りも道行く人の姿も十分に豊かでおしゃれである。日本との違いを言えば、そこは今景気がいいだけあって、目つきのおかしい連中を見かけない。東京じゃ外出るたび、毎日、いくらでも見るのにね。3日滞在した間、こいつやばいねというのに出会ったのは、2、3人だけだった。
この、シティと呼ばれる地区の地下街には、食い物屋だけでなく、何の店でもそろっている。その一件にそんなサラダ屋?が。

日本をバカにしているのか、それともあこがれているのか。私見を言えば、デブがほぼ裸で抱き合うあの競技を、国技と持ち上げるのはどうかという気は確かにする。ある種の外国人には、コミックショーとしか思われないらしい。
そういえば何かのジョークに、巡業中のスモウレスラーをプロジェクターに映して、「みなさん、肥満は病気なんだと、ここではっきりと認識して下さい」と、アメリカの医者だか保健省の役人だかが、言ったとか言わなかったとか。
本屋もある。

なかなかの品揃えだが、残念ながら英文の本しか置いてなかった。
聞けばシンガポールの上級華人は、子供の頃から英語で育てられているから、母語は英語なのだという。そうした英語華人と華語華人との間には、やはり微妙な緊張があるとも言う。ともあれ、お堅い本は英語でというのが、ここシンガポールの流儀であるようだ。
地下街をずんずん進んでいくと、お隣の地下鉄駅にまで至ってしまった。そのかたわらに、なんだか寂れた食い物屋があって、これまた始めて、チキンライスの張り紙を見る。Sくんの言葉を思い出し、一発食ってみることにする。
カウンターの向こうには、黄色いのが何人か居る。外国人らしゅう、メニューを指さし黙って注文する。ところが、そのセットメニューはどうだかこうだかと私の分からん言葉で言うので、仕方なく中国語を取り出してやりとりせんとする。ところが、私の北京語はよくわからんらしい。仕方なく英語に切り替えると、お前何人だと言う。俺は日本人だと英語で言えば、朝鮮語はできんかという。
…できる分きゃあねぇだろ!
なおもお前朝鮮人か、というので、日本人だと言っとろうが、と北京語でまくし立てた。
朝鮮人が朝鮮人だと言われて怒るのはおかしいと思うが、日本人が朝鮮人だと言われて怒るのは正当であろう。ま、怒りゃあしないが、その代わり愉快では決してない。
そういわれてしげしげとその黄色い連中を見直すと、いかにも華南人らしいのに混じって、朝鮮人っぽいのもいる。本当にそうなのかどうかは分かりかねるが、なおも朝鮮語が朝鮮語がというようなことを言っていたから、そうなのかも知れない。出稼ぎか?
やがてチキンライスがやってきた。

確かに悪くはない。が、ちょっと油が過ぎるようだこのチキン。スープもなんだか甘ったるい。その代わり米の方はおいしかった。これだけでもいいんじゃないかと思うくらい。
たぶん、食った店が悪かったんだろう。
食い終わって外に上がる。

上がったところにあるこの看板は、地下鉄の駅であることを示すとともに、ここがシェルターでもあることを表している。この国では全土に、それこそ高層住宅の区画ごとにまで、こうしたシェルターがあるという。

シンガポールがパターナリズムな独裁国家であることは既に書いたが、それだけにこうした国民保護には気が配られている。同じく陰険な役人国家であるポンニチの政府は、こうした配慮をしたことが一度もない。民主主義が建前だけであり、国民の皆さんが下らないから政治も行政も下らないんですよ、司法は無能でいい加減ですよと言い訳する我が国と、開き直った独裁国家と、いったいどちらが幸せなんだろう?
何か言っただけでブチ込まれる事がないのは、確かに私にとって至高の価値だが、こうしたことどもを見聞きすると、深刻に考え込んでしまう。
しかも思い通りのことが言えないのは、実は日本も同じではないか? 法では自由だが、法以外の規制が、日本にはあまりに多すぎる。
それゆえ言いたいことが言いたいからこそ、私はリーマンではなくヨーマンの人生を選んだのだ。
さて地上に上がったところで見回せば、こんな側車が。

私はバイク乗りであり、とりわけ側車が大好きだ。ここシンガポールでは、バイクの側車は見かけなかったが、自転車のそれはいくつか見た。お客さんを2人まで乗せ、タクシーとして運行されているらしい。
シンガポールのタクシー事情は、わかりやすくできている。まず大型車はほとんどアメ車、そして中小型はヒュンダイだ。そういえばその他の自動車も、日本製はあまり見かけない。そこにどんな事情があるかは分かりかねるが、古い日産がタクシーで見られる以外、ここでは日本車はメジャーではない。
部屋に戻って、夕暮れの街を眺める。

南の島だけあって夕焼けはすばらしい。見とれて、思わず撮るタイミングを逸してしまったほどだ。
夜が更けても、車の流れは絶えない。しかし強権国家だけあって、騒がしいと言うことは全くない(騒げばむち打ちらしい)。深夜の2、3時頃を除いては、ビルの工事も突貫で続けられている。景気がよいとはこういう事か。ジョニ黒の残りとご当地タイガービールを飲みつつ、この島初日の眠りにつく。

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