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シンガポール時間の1230ごろ、ふらふらと宿を出る。ふらふらしているのは元々だが、昨夜の飲み過ぎがたたっていることは言うまでもない。それに気付かず、あり、いつの間にか体力落ちたか、変だナ変だナと思いつつ歩く。
出てどこに行くという当てはないが、まずはすまなんだの塔を回り込んで東へ向かう。バカと煙は高いところを好むとか、私もまた、高いところからこの島を一望してみようと、シンガポールフライヤーなる、巨大な観覧車にでも行こうかと考えたのだ、この時点では。

すまなんだ塔の向こうには、金貸しやら電話屋やらの摩天楼がそびえている。これでファッションヘルスやらの店があったら、町田の駅前と構成要素は全く同じだなぁと一人笑う。
てくてく歩いていくと地下鉄の駅がある。乗ろうかとも一瞬考えたが、たかが電車に乗るのも面倒くさがって、そのまま歩くことにする。
シンガポールは今日は平日である。今歩いているここは、シティと呼ばれる繁華街にも関わらず、ほとんど人を見かけない。歩いているのはプータローと観光客と、その両方を兼ねる私ぐらいのものである。あたかも空襲警報があって、みんな地下壕に逃げ込んだかのような静けさのなかを歩く。

ただし車通りだけはそこそこある。何かと規制が厳しいこの島では、中心街への乗り入れもまた規制されているゆえ、うんざりするほどの車通りはない。見れば鉄の馬もぽつぽつ居るが、ほとんどは2輪タクシーやら何かの配達やら、仕事のバイクばかりであって、趣味で乗っていると見受けられるのはちっとも見かけない。
さらにずんずん歩く。地図と首っ引きではあるが、確信を持って歩いているわけではない。腰にバッグ、肩から鞄、そして用意の伸縮杖を伸ばして歩く。ところが途中で面倒臭くなって、杖は縮めて腰に差した。
私が杖を持ち歩くのは、若い頃膝を痛めて、時として歩行がつらくなるからだが、それ以上に安心だからでもある。長かろうと短かろうと、棒さえあれば、テッポーでも出てこない限り恐れることはない。さてこそサムライの国に生まれけり、と一人悦に入ってのしのし歩くが、端から見れば勘違い、バカに見えても仕方がない。
ある大きな交差点に出た。樹木に遮られて観覧車は見えぬが、先ほどの空飛ぶフランスパンが右手に見えた。

一般的には、空飛ぶサーフボードと言われるそうだが、ポンヌフの男である私は、やはりフランスパンであると強く主張したい。
それを眺めつつ、あーどしよっかナー、狭いかごの中に甲乙丙丁と一緒に詰め込まれるより、開けたところで街を見下ろした方がいいよナー、と決心を変え、観覧車でなくフランスパンに乗ることにする。
上画像右手、植木に隠れて見える骨組み状の構造物は、徒歩専用の橋である。

この地図には載っていないが、南北を走る白い道路の左側に、この人道橋はある。だいだい色は高速道路。今私の立っているところから見ると、その対岸にフランスパンはある(旗印)。湾を隔てて向かいには、かの有名なマーライオンが、ぶぅぶぅと水をはき出している、そう言った位置関係だ。
橋をてくてく歩いていると、なかなか見晴らしのよいところに出る。そう思わせるよう、橋には出っ張りが付けてある。そこから一枚、背景は湾と、金貸しの摩天楼と、勤勉にも水をはき出し続ける水陸両用ライオンである。
左手を伸ばしてカメラを持ち、誰の世話にもならず写真を撮る。そこへ通りがかった白人のカップルが、撮りましょうかと英語で言う。いや大丈夫です、そちらさんこそいかがですかというと、それじゃと言うので撮って差し上げる。
繰り返すが私とこの観光客らしきカップル以外、人っ子一人見あたらない。いや正確には、木陰やその他の日陰で昼寝中の、人足の人々がちらほら居はする。よく観察してみると、人足のたぐいはほとんどが肌の黒い、アジア系の黒人だ。インドか、それとも東南アジアか。
シンガポールは今景気がよく、あちらこちらで工事をしている。現地の知人に言わせると、仕事でこの島に来てる白人は、どいつもこいつもカスリ取りか、そうでなければKGBみたいな連中だという。そいつらぁを頂点?に、次なる黄色いのはともかく、この島で底辺の肉体労働をする階層には、このようにはっきりと人種的な特徴が見える。
なおその知人によると、シンガポールはちっちゃいから、どこへでも歩いていけそうな気がするがそれはとんでもないという。ちょっと歩いただけで汗だらだら、とてもたまらぬらしい。ところが幸いにも、この日は暑すぎず寒すぎず、適度にお天道様も隠れて、気持ちのよい微風まで吹いている。これ幸いと、とうとう電車にも乗らず、橋の対岸にまで渡ってしまった。
渡れば貝を模した建物(どうやら美術館だったらしい)と、なにやらきれいでにぎやかっぽい建物がある。入ってみるとショッピングモールで、いろんなものが売ってある。

しかし私の興味を引くようなものは何一つ無い。当たり前だ、東京でも買えるようなものばかりだから。店の作りも東京そっくりで、外国に来た気が全然しない。それでも何か無いかナと歩き回っていたら、妙な化粧品の店が一つあった。

画像中央の、案内ブースみたいな店がそれである。白く飛んじゃって分かりづらいが、「ONSEN」と書いたぁる。アジア圏に行くと、よく日本製品のパチモンを見かけるが、これもそのたぐいなのだろうか?
モールをぶらぶらするのにも飽きて、外に出る。道路の対岸がフランスパン、そこへ渡る横断歩道もない。よくよく気をつけて走り横切り、ふと見上げると、遠近感が狂うほどの威圧感が。

さあ、あれに登ろう。

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