(13)


***おことわり***
お食事中など気分を害すると困る状況にある方は閲覧をお控え下さい。


2011年の、大晦日の夜が明けた。

今日は昨日よりさらに雲が多い。
右手に緑色に見えるのはチャリダーカップルのゴアライト。昨夜は焚き火台まで出してお楽しみだった。焚き火っていいねぇ、私もやろうかしら。
ただし焚き火場を覆うタープ(屋根だけのテント)が夜のうちに飛ばされ、朝風にバタバタとひるがえっていた。朝の挨拶をするとおニィさんの方が同様に言っていたから、あまり眠れなかったんじゃないかな?
キャン場周辺の散策に出る。

天気の傾向はだいたいつかめたから、お天道様が上れば晴れるのだろうと予想する。風は昨日、昨々日ほどは強くない。
キャン場を海風から守っている防風林は、一般的な背の低い松だ。

そのトンネルを通り抜けながら思うのは、こうした植物の名前を、ちゃんと勉強しなきゃなということ。世間のあれこれや難しい学問より、鳥や星や花の名前を覚える方が、はるかに人生が豊かになるように思われる。ただし子供の頃と違って、図鑑ぱらぱらめくってみても、なかなか覚わんないんだよね。
朝メシを支度する。

とは言っても湯ゥ湧かしてチキンラーメンぶっこんだだけ。例によってぜんぜん沸騰しないから、ほどほどのところでシーチキン入れて腹に収める。
今日は帰る日だ。
出港は1430、1時間前には港に行くとして、さてどうしようか。とりあえず裏砂漠には行くつもりだが…島ニャンコの店「かあちゃん」にも行きたいが島の反対側…はてどうしようかと思案しつつアールグレイをすすっていると、雲を突いてお天道様が輝き出した。

静かな、満ち足りた時間である。
満ち足りているのももっともだ。
茶を飲む前、そう言えば島に来てから出るべきものが出てないのに気付く。私が旅に出ると、良くこういうことが起きる。ゆえにキャン場のそれなる所に行ってみたが、丸の内あたりのオフィスビル並みに整備され掃除され、紙とその予備さえ置いてある、まぁ寒風は吹き込むがね。
キャン場の何たるかをそこそこ知る私にとり、これはちょっとした驚きである。繰り返すがここタダなんですぜ。
テントを撤収する。

野良で生きるに必要なもの、まとめてしまえばこんなものだ。
引き寄せて 結べば草の庵なり 解くれば元の 野原なりけり (漱石)
Oさんやチャリダーカップルに挨拶して、この思い出深いトウシキキャンプ場を去る。

0945ごろ、メイト君に一切を積んで出発、椿のトンネルを東へ。

まずは波浮港を目指す。

その途中、★印のあたりに公園があるのに気付く。朝日と海とが混じり合って、これはよき撮影ポイントかなとメイト君を乗り入れる。
しかしこの構図だ、と思った地点の向こうには、釣り客のワゴンが停まっている。
あんだこの俗な連中、邪魔なんだよどきゃあがれ、とずいぶん身勝手かつ非論理的かつ反社会的な妄想が数瞬よぎった後に、ポイントを変える。

いかんいかん、と反省しつつ波浮港に向かう。

大晦日の朝とて、港は静まりかえっている。人っ子一人いない。文部省唱歌、/~さぁー霧ィー消ーゆる みーなとえのぉ~、ふーねーにぃしぃーろし あーさの霜ぉ~、ってやつ。霜は降りてないけどね。
ここにはかつて遠洋漁業基地として栄えた頃のあれこれがあるそうだが、今日は時間がないから、メイト君に騎ったまま、ぐるりと港を見回しただけで引き返す。
次いで伊豆大島の貝の博物館、ぱれ・らめーるに向かう。
ほほう、海の宮殿、Palais la Merですか(今ググり訳したらPalais de la Merだって。どっちが正しいんだろ→deは~の、にあたるらしい。知ったかぶりしよっと)。この国では、おフランス語にするととてもオサレに聞こえる。
この施設はもともと元町にあったが、波浮港の近くに引っ越したという。先達の情報に寄れば、元町では都営YHの廃墟に入居して、つましく堅実にお店を広げていたらしい。「まるで中学校の文化祭のようだ」とか。
それがなぜ移転したかはわからない。おそらくは廃YHの建物がぼろぼろになって、それはそれは無残なことになっていたからだろう。そんな建物を、私は全国各地でいくつも見てきた。
この博物館、古い地図だと元町のままになってることもある。それゆえ場所が良くわからない。ここらじゃないかなというあたりをメイト君転がしていると、いかにもなお役所建築の壁に、それらしき表示を見つけた。(画像はこちらのサイトより拝借)
この大島町勤労福祉会館の1、2階の一部を区切って、博物館は置かれている。この会館、なんと昭和いボウリング場まで同居している。ただし時間ゆえかそもそも開いていないのか、そちらは静まりかえっている。ボウリング場と博物館がお役所に同居とは、なんとも珍しい。
ここは近隣のスポーツ施設の管理も兼ねているそうだから、トウシキキャンプ場の管理もこちらの方々のお手によるものか。ならばここは、伊豆大島南部のスポーツ・文化など、健全な娯楽の中心というわけだ。
さてなにがしかのお金を受け付けで払って…と思ったが誰もいない。あたかも、常設ではなくホールでこの期間だけ展示会やってますっていうようなけしきで、うっかりするとお金払わずにふらふら入ってしまいそうだ。
見れば受付の奥に、注射打つ時の病院の仕切りみたいなのが置いてあって、その向こうからテレビの音が聞こえる。やむなく、すみませ~んと大音声(だいおんじょう)をあげる。落語なら、誰だ玄関で謝ってるのは、と怒られる所だ。そんなバカバカしいことを考えていたら、職員の方が現れた。
やっと払いを済ませて中に入る。

これはサザエさんが大きく育っていく展示。
(画像は東海汽船のサイトより拝借)
カメラの電池がアヤしいからあまり撮らなかったが、館内には生きた貝は一匹もいない。ただし臨時展示会どころではない立派なしつらえだ。室内所狭しと、伊豆大島近海のものは言うに及ばず、国内外の貝殻がいっぱいに並ぶ。それもカッチリと専門家による分類を経ていると思われる見せ方で、付けられた説明文も学問の匂いがする。移転して良かったね。
ユマニスト(人文的訓練を経た人間)としてそれら説明文を読んだ私が思うのは、あ、やっぱり理系の人の文章だ、という感想。正確なんだけど、専門家じゃないとこれわからんだろうなということである。しかしそれだけに、知的に誠実とも言えるわけだ。
妙な貝を見つけて思わず笑う。

居るねぇ、こやって口ィ開けっぱなしの人。角度変えるともやしもんのなんたら菌君にも見える。
食える貝もたくさん居る。

これはチョウセンサザエ。朝鮮にもサザエさんが居るらしい。
こんなのも居る。

貝にも天狗が居るらしい。カッパは見つからない。
こうした貝々殻々は、島の漁師の網にかかったもののほか、専門家が精出して集めたものもあるという。貝には貝の世界があって、趣味人の間では高額に取引されているのもあるらしい。

この博物館にはそうした貴重な貝もある。伊豆大島はじめ伊豆諸島は、貝の専門家にとってはすばらしい場所らしく、移り住んで研究生活に没頭する人も居るそうだ。
火山博物館といいこのLe Palais de la Mer(もうやめや)といい、伊豆大島は本当に一生懸命で好感が持てる。
なお私の文章では、この宮殿の雰囲気を伝えることは難しい。お暇があったら、こちらのブログをご参照願いたい
40分ほど過ごしてぱれ・らめーるを去る。さ、今日のメインイベント、裏砂漠に行こうや、メイト君。

(つづく)

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