(9)


テントを設営し終えたら、次はメシの支度だ。
繰り返しになるが私には、たいそうな料理をフィールドで作る趣味はない。現地で、思いもかけずごちそうが手に入った時は別だが。若い頃の北海道ツーリングとかでは、漁協で獲れたてのシャケを、ただ同然で貰えるといったような機会があったが、今はもうそんなことにも巡り会わない。
高山に行かない私の火器は、夏になればどこのホムセンでも売っているイワタニのジュニアバーナーだ。これはカセットコンロのガスがそのまま使えるから、燃料の心配がない。ちっちゃいしね。大昔は、バイクとガス共用でコールマンのガソリンストーブとか使っていたけど、あれめんどくさいんだよね、かさばるし。
あとは100均の木板を下敷きに、風よけは同じく100均の天ぷらガードを…
ああっ! 忘れたっ!!
これだから時間をおくと、フィールドの技能がなまっちまうと言うのである。
仕方なく強風がびゅうびゅう吹く中、ご飯パックを水入れた飯盒にブチ込んで火を焚く。ところがいつまで待っても湯にならない。ごうごうバーナーは鳴っているが、時折の風に消えそうになる。
それではということで、キャンプ場のかまどの隅で風を防ぎながらバーナー全開とする。しかしいっかな湯は沸かない。そもそも底が狭くて高さがある飯盒は、バーナーで使うには適していないのだが、その上この風ならなおさらだ。
そうこうするうちに燃料が心許なくなってくる。まぁ明日買えばいいが島価格ではねぇ。とうとうあきらめて、もう暖まったじゃろと言いつつご飯パックを取り出す。今見積もると、たかが1リットルほどの湯沸かしに、最低20分はガス焚いていたことになる。
湯は改めてチタンの山ヤカンで湧かす。あっという間だった。それを飯盒の中ブタに注ぎ、味噌汁のモトを溶かして完成。只今1740ごろ、それでは頂きます。

おかずはシーチキンと白菜の漬け物のみ。フィールドでは、腹がふくれればいいじゃろと、秋山好古閣下のまねをする。
食し終わって後、これも秋山閣下のまねをして、ウォトカをちびちびやりだす。無論最初はチビチビだったのだが、やがてグビグビになってしまう。
と、外で気配がする。キャンプ場の先客、静岡からいらしたOさんが、食事の後片付けをなさっている。ご挨拶して一杯やりませんかとお誘いすると、快く応じて下さる。
かまど場の屋根の下、酒盛りが始まる。Oさん自慢のニンニク揚げがおつまみ。私はウォトカを差し上げる。Oさんもまたバイク乗りであり、煙草のみでもあって話が弾む。山へ行ってもテン張りしても思うのだが、好きでアウトドアやる人*にはタバコ呑みが多い。スポーツやる奴が煙草なんて、というアメリカかぶれは、どうにかなってしまえばよろしい。手練れの岳人でも、煙草のみは多いのだ。
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*すなわちファミキャンやるパンピーはおとといおいで。
すんませんねぇ、テン場でファミキャンと隣り合うと、ろくな目に遭ったためしがないんですよ。あの連中、ガキはわめくし花火は上げるし、好き放題にゴミほっぽらかす確率も高いし。んでテン張り禁止になっちゃった場所の、何と多いことか。札びらも切るから、キャン場の料金もどんどん上がっちゃった。
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話は尽きないが、あまりの風の強さと寒さに、そこそこのところでお開きとなった。
ねぐらは100均銀シートをフロアシートとし、まだぎりぎり10代の頃に買った百戦錬磨の銀マットを寝床とする。昔の日本製品は良く持つのう。
その上にドッペルギャンガーのハーフマット、そして寝袋はロゴスのダウンアリーバ。-15Cまで耐えられるといううたい文句だが、ま、公称値だからね。ただし今日のように、気温が氷点下にならないような所では十分だ。

今回の旅には1つ目的がある。それは、溜まった本を読んでしまうことだ。ゆえにウォトカグビグビやりつつ、持ってきた『荘子』を読むことにする。

読書に飽きればラジオを点ける。キャンプでのラジオにはなかなかの味がある。今日はそうでもないけれど、誰も入ってこないようなとんでもない山奥で一人テントを張り、野生生物にややおびえつつ、満天の星空のもと、寂しさと恍惚感が入り交じった気分で聴くラジオは、何とも言えない。
満天の星空? あそうだ、も1つの目的に取りかかろう。
私は星屋でもあるから、空気が綺麗で明かりのないところでは、星見を楽しみにしている。ただこたびの乗騎はメイト君だから、あまり大げさな機材を持ってくることは出来ない。ゆえに汎用ビノとしてニコンHG、星見専用機としてキヤノン1850ISを持ってきた。荷造りの際は、大型ツアイス持って出ようとも思ったが、壊したらそれこそ/~泣きなさぁあいぃ~になってしまう。ブッ壊れてもすぐに安く修理できる日本製品は、こんな旅にはおあつらえ向きだ。

ビノを天空に向ける、その前に、裸眼で星を眺むれば東京とは格段の多さ。ま、伊豆大島は島とは言っても、そこそこ都市圏に近いから、降るような、と言うわけにはいかない。いつか行った海外の島で見た、大げさではなく本当にのしかかるような星空、もいっぺん見てみたいなぁ。
んで伊豆大島の星空だが、けっこう楽しめた。すばる、オリオン星雲、アンドロメダ星雲など、視界が広いだけに、盆と正月が一緒に来たような光景が堪能できる。時間を追えば夏の星座であるはずの、はくちょう座アルビレオも見ることが出来た。こと座の星雲が確認できなかったのは残念だったが、オリオンのトラペジウムなど、東京より星の数がやはり多い。うふふのふ。

wikiより画像拝借
星を眺め、酒を飲み、本を読み、ラジオを聴く。たった1畳ほどの空間があるだけで、こんなに満ち足りた、自由な時間が過ごせる。テント泊の、なんと愉快なことよ。

…とうとう、持ってきたウォトカは空になってしまった。
(つづく)

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