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観光案内所で貰った地図によると、伊豆大島には町立の博物館のたぐいが3つあるという。うち2つは火山博物館と貝の博物館で、これは御神火の、また島ならではだ。も1つは郷土資料館である。そのうたい文句は以下の通り。

あれま、今気付いたが、屋外の民家を見忘れてしまった。また行かずばなるまい。
私は旅先で、この手の施設を見るのが好きである。ものすごい田舎へ行くと、別に見るものがないためでもある。伊豆大島はものすごい田舎には当てはまらないが、いずれの所でも存外この手の施設は、立派に作られていることが多い。無論ハコだけ立派で魂入れず、という所もあるのだが、たいていは郷土史家や高校の先生方とかが、精出して資料の収集整理に当たっていることが多い。
ただし残念ながら、館員の方がその手の専門家であることはめったにない。やる気のある人であることもなかなかない。たいていは、不本意ながらここに回されてしまいましたというような顔つきの役人か、もう引退してヒマになりましたというような顔つきのおきなである。これはまぁ当然で、自治体にとってはさほど産業振興になるわけでもない施設に、専門家を置くほどのやる気はないからだ。それは働く側とてそうだろう。私のような中年ニートで、かつあまりお金を欲しがらないインテリが、全国津々浦々でぶらぶらしているなら何とかなるのだろうが。
資料館は空港のすぐそばにある。実のところこの場所は、元町の中心部から、北部の岡田港に行く道筋のほぼ中間であって、所要時間は10から15分ほど。島が何ともコンパクトであることが良くわかる。道しるべとしては元町から北上して、大島高校を通り過ぎたら、左手の看板に注意すればよい。
風は強く冷たくもあるが、良く晴れたお天気の中、脱いだダウンジャケットを乾かしがてらメイト君をパカパカ走らせると、その看板が目に付いた。左折して木立の小道を通り抜けると、右手にこぢんまりとした資料館が現れる、只今1320ごろ。

駐車場はあっても駐輪場はないようなので、正面の椿の木にメイト君をつないだ。と、中からおきなが出てきて、こちらに近づいてくる。あ、やべ、見つかっちゃった、ここに停めるなと言われんだろなと覚悟していたら、どうぞいらっしゃいませとおきなが言う。恐縮しつつなにがしかのお金を払うと、さあどうぞと展示室に私を導く。
展示室には誰一人いない。まぁそんなもんだろとキョロキョロしていたら、おきながおっきな大島の、立体模型の前にすくと立ち、指示棒をばシャキンと伸ばし、「まず大島の概要をご説明します」と言う。あれま、本格的だねぇ。見たところこのおじいさんもシルバー人材なんたらのたぐいでここに詰めておいでのようだが、ここまでやる気のある方は初めてだ。うれしくなり有り難く拝聴する。
おじいさんの説明を伺い、歴史・地学・農学的な質問をいくつかする。そのほとんどに正確な回答を、おじいさん返してくる。それによって役小角が流されてきたこと、大島の地学的成立過程、土壌がイモ類に適していることなどを知る。とりわけ縄文時代における黒曜石の出土と本土への流通に関しては、私の勘違いを訂正した。それゆえ失礼ながら、鄙にはまれな教養人とお見受けした。中学か高校の先生を務めていらしたのだろうか?
おじいさんも、こりゃ説明のしがいのある客だと思ったのだろうか、個々の事柄の背景など、詳細な話をして下さる。また島の風土や見所、その行き方などを詳しく教えて貰った。それらは、あえて教えて貰わねば、風来坊には行きようのないような所である。
と、入り口で何やら声がする。どうやら、おじいさんの孫が親ごさんと帰省し、ここへ会いに来たようだ。せっかくですからどうぞと私は言って、以後は一人で展示を見る。展示してあるのは歴史史料・資料や民具など、この手の資料館ならどこにでもあるようなものばかりだ。ただしその説明文が秀逸で、簡潔かつ、いささかのおかしみを含んでいる。私には、なかなかこういった文章は書けない。

その他目立つ展示は、島ならではのあんこさんの衣装だ。そう、都はるみのあのあんこである。/~あんンンこぉ~(画像は大島観光協会から拝借)。

一通り見終えて辞そうとすると、おじいさんまた出てきて、ビデオをぜひ見ていって下さいという。ではそうしましょうと、誰もいない映写コーナーにて、自分でDVDプレーヤ操作して映像を見る。
それは2本立てであり、1本は波浮港を開いた江戸時代の先人の話、もう1本は地元大島高校の、女子生徒のバイトの話だった。島の人口も観光客も減る中、彼女たちはあんこさんの格好をして港に出向き、観光客を送迎しているという。制作は高校の放送部?だったが、秀逸だというので賞を貰ったらしい。
見終えた頃、入り口がなにやら、ガヤガヤ騒がしくなった。見れば観光バスが横付けし、ちーっ、と音がしてドアが開く。開けば中から甲乙丙丁が、昆虫の孵化見たく下りてくる。おじいさん飛び出しその応対をし、対するガイドは何人何時の出発とか、引き継ぎ事項を事務的に伝えていた。どうやらここは、ガイドコースに含まれているらしい。かくして先ほどまでの静寂が破れたのを機に、私はここを辞することにする。
資料館を出ると、バスが去った正面にメイト君が待っていた、只今の時刻1350ごろ。

(つづく)

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