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登山を終えてメイト君の所に戻り、一旦波平になった後で再びライダーへと変身。時刻はそろそろお昼、メシにすることにしよう。
というわけで、元町に向かってお山を下りていく。

まるで空飛んで海に飛び込むような道、あるいは見えている滑走路に横から着陸か。
下山し、メシメシと思いつつ元町のまちをうろうろする。風とうねり強く、今日の着岸港は北の岡田港ゆえ、まちは静かである。それでも繁華街に入れば食べられるところどこかにあるじゃろ、島ゆえにさてこそ魚は美味しかろうと期待しつつメイト君をトコトコ歩ませていると、港近くに観光案内所が。

こぢんまりした清潔感のある建物に入ると、職員の方が2人ほど座っている。私が入ってきたのを見つけて、いらっしゃいと立ち上がった。これも少し驚きである。
ヒマだったからかも知れないが(そうでないことはこの後わかる)、公共機関の愛想の悪さにもうあきらめの感情を持っていた私は、恐縮しつつ今夜のねぐらであるトウシキキャンプ場の場所や、飲食入浴の情報を尋ねる。整理箱から次々と案内図を取り出し、職員の方丁寧に教えて下さる。
今思ったが、私がデフォルトと考えている役人や準役人、客あしらいの悪いリーマンというのは、最末期のソ連や社会主義時代の中国にいた連中そっくりだ。すなわちそのあたりの商店に行き、
「卵と塩ありますか」「(振り向きもせず)ニェート/メイヨー(=ねぇよ)」。
全国民が役人の国で、「無産階級の国」「人民に奉仕せよ」と、ソ中ともに口が酸っぱくなるほど説教していたが、いずれも無駄であった。客を足蹴にしても自分の生活が困らなければ、人間はこうなるという標本を、かつては外国で、今は自国で見せられているわけだ。客が金や権力を持っていればとたんに待遇が変わる、それもまともな資本主義国では考えられないような極端さで、というのも同様である。
ということは日本にいるご同類も、この先長くはないのだろう。
対して大島の公共施設で接した職員の方々は、どの施設に行っても、もはや絶滅危惧種と心配になるほどの丁寧さと親切さで、それゆえ驚いたのである。
閑話休題。
ここで耳寄りな情報を得る。大島には公共温泉が2つあり、うち1件は水着着用だから今回は不可、もう1件を目当てにしていてその情報を聞いたら、チケットここで売ってますという。現地で買えばそのお値段1000円、ここで買えば500円!
…これならお江戸の銭湯とほとんど変わらない。買います買います。
案内所を後にし、メシ食いに、案内所すぐ近くの港沿いの道へ。

教えて貰った店々が並んでおり、2軒営業している。
1軒はでかでかと、メニューとそのお値段が店の前に書いてある。大げさではなく本当にでかでかと、それもほぼ全てのメニューを網羅してである。どっかの寒い島ではボッタクリが流行っていることを、お店のご主人が知っているのかも知れない。安心して入って貰おうというわけだな。
一応もう1軒も検討すべくメイト君を進める。
遠目に眺むれば、店の傍らに、でかでかと今度は「貸竿」と書いてあり、赤い釣り竿が何本も、天空を向いて立っている。美女相手ならこのおっちゃんも貸さんでもないよと冗談を一人言いつつ、近づいて店の入り口をひょいと見ると…

降参。もう降参。理性が吹っ飛んで店に入る。
店内は東京で言えば、中くらいの寿司屋といった感じである。高校生ぐらいの娘さんと、そのお母さんが2人で店を切り盛りしている。先客は釣り客と思しき5、6人のおっさん連中が、ごうごうがあがあと小騒ぎしてるのが1かたまりと、早めの卒業旅行っぽい若い女性が、4人ほどピーチクパーチクしてるのが1グループである。
せっかく島に来たのだから、島の魚を島の味付けで味わいたい。おかみさんに聞くと、べっこう寿司というのが名物という。伊勢えびの味噌汁が付いて1000円しない。それをお願いしてふと頭を巡らすと先ほどの島ニャンコが。

何とも心穏やかだ。天気は良くハキハキしたお店の対応も良く、ニャンコもまた良し。
ほどなくべっこう寿司がやってくる。テーブルの向こうに見えるのは、女性グループのお尻である。

この寿司は、白身の魚を醤油ベースのピリ辛いタレに漬け込んだものとみえ、何ともうまい。これで1000円しないとは天国だ。
うまいから食が進むが食い終わってしまうのが悔しいような気持ちでつまみ、汁をすする。満ち足りた時間を過ごし、あ~美味しかったごちそうさま。
ここでがらりと戸が開いて、若い女性が客として入ってくる。済みませんね相席でとおかみさんに言われ、女性私の前に座る。
ここ10年来、こういった状況でろくな事になった試しはないから、こりゃいかんと横向いて急いで装束を着け、私は退散しようとする。
ところが気がつけば靴の紐が切れている。結び直したりなにやらでまごまごしていると、ライダーですかと話しかけられる。ええそうですがと適当に相づちを打っておく。そいではさいならと退散を続けんとすると、私もライダーで、と女性が言う。
聞けばこの女性、けっこうツワモノで、ボルティ(ちっちゃくて、頑丈で、しかも財布に優しいスズキのマシン)に乗って全国あちらこちらを旅しているらしい。そうなれば話を聞きたくなるのも無理ないことで、退散を一時中止して茶をすすることにする。
バイクでいらしたんですね。ええ。お嬢さんは? 調布から飛行機で。ああ、あの小型機ですか。おもしろそうですね。お乗りのは表に止まってたメイトですか。はぁそうで。普段はリッターマシンにも乗りますがね。どんなところにこれまで行かれたんですか。ええ全国たいがいの所に。沖縄小笠原だけはヒコーキや船ですが。お嬢さんはどこに?
…こんな会話を交わしているうち、女性のべっこう寿司が来る。それをしおに、かつての旅人にはよく見られた、またどこかで、との女性の挨拶に丁寧に返事しつつ、店を辞す。
外に出て海を眺むれば、おそらくは徳島フェリーだろう、強風の中を上り便が東京に向かって進んでいた。そろそろ、1時近い。

(つづく)

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