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/~船は出ていく煙は残る、残る煙が癪の種、という都々逸があると言うが、今の船はディーゼルだから、ほとんど煙が出ない。その代わり「ゴンゴンゴンゴンゴン」という、まるで石文字が飛び出てきそうな重低音が船室に響く。
出港から1時間ほど後、寝付かれずふと気付くと、このエンジン音がなんだか弱くなっている。

外に出てみると船は漂泊中、おそらく羽田沖で時間を潰すと見える。素直に船を走らせると、早く大島に着いてしまい船客が困るから、こうやって調節しているのだ。
船内に戻るとうまそうな匂いがする。食堂は営業中らしい。北海道に行くような長距離フェリーとは異なり、さほど大きな食堂ではないが、それでもお客さんがちらほら呑んだり食べたり。ついふらふらと私も入ってしまう。
メニューを見ればいかにもな定番のほか、「インドカレー」と書いてある。普通のカレーとの価格差は確か150円ぐらいだったと記憶する。あたかもラーメンとチャーシューメンとの違いのようで、どうやら骨付きのトリ肉が載っているらしい。さほどものを考えもせず、1丁下さいと言ってしまった。

船の食堂ゆえ見た目はこんなもんであり、量もこんなもんである。ただこのカレー、意外にうまい。トリ肉も良くほぐれ、ルーとの相性もばっちりだ。おかに上がってカレー屋として商売しても、結構行けるんじゃないのコレ、と思った。
食べ終わって喫煙所に向かう。窓の外の景色は相変わらず動かず、かめ丸はゆっくり時間を潰している。

このままぼんやりとするのも面白いが、所在ないのでとりあえずねぐらへ。
ウトウトする程度の眠りの深さだったが、時間は移りアナウンスが入る。いよいよ大島に着いたらしい。装束を身につけ荷物を担ぎ、デッキに出てみると外はまだ真っ暗、そのなか船は伊豆大島岡田港に入っていく。

ほどなく着岸。
下船口はガヤガヤと混んでいたので、人の列が途切れるまで待って船を下りた。いずれにせよメイト君が下りてくるまでには時間がかかろうから、急いでも仕方がないからである。ところが船員さんと港湾の荷役さんたちの手際が思ったより良い。このあと利島・新島・神津島…と回る必要からだろう。それゆえメイト君は下ろされたコンテナから出され、すでに地上で私を待っていた。

おはようッス、ご主人。
荷を括り付けつつ走る準備をする。おおむねそれを終えた頃、島の駐在と思しき人が寄ってくる。日ごろの連中といい、出がけにイチャモン付けてきた太りすぎのといい、こりゃろくな事にはなるまいとうんざりしていたら意外な言葉が。
「大島はここのところ寒くてね、三原山の登山道なんかずいぶんと凍ってる、昨日雪溶かしの炭カル撒いたほど、だからよくよく気を付けてね!」
あれまぁずいぶんと親切なおまわりさんだこと、と感心しつつメイト君を走らす、ただいまの時刻0620ごろ。

どこと言って向かう当てはない。島に上がった私がしなくてはならないのは、今夜のねぐらであるトウシキキャンプ場を探してテン張りすること、そして2日後に、またかめ丸に乗ることだけだ。
岡田港はおおむね島の北端にある。ゆえに港からの道は南下の道であり、くねくねと急坂のそれが大島一周道路にぶつかるT字路で、はて右か左かとしばし迷う。どうせのことなら日の出の見える方というわけで左に向かう。
日はまだ出ておらず、あけぼのと言うまでにもまだ間がありそうだ。

雲量はやや多め、これは今日一雨やられるかも知れないナと思いつつ、メイト君を走らす。
一周路は良く整備されてはいるが、全てが2車線の幅広道というわけでもない。加えて島の東部は集落も少なく、交通量がそれほど無いと見えて、見る見るうちに細道へと変化する。

道上にはところどころ、木が枝を伸ばしトンネルのようになっている。後で知ったのだが、これこそ島の名物椿のトンネルである。大島には椿が多く、それゆえに椿油が名産となっている。漁協のおばちゃんの話では、おばちゃんたちはヒマになるとこの椿の実を拾いに出かけ、製油所に売ってお小遣いにすると言う。
やがて日が上がり、曇りはしているものの視界が開ける。と、
茨城のビーフラインを思い出させる、うねうねとアップダウンのある道を進む。

見上げると何かが電線を伝ってうろうろしている。よく見るとおさるさんである。細い電線に家族と思しき大猿中猿小猿が5、6匹、よくもまあ落ちもしないものだと感心する。視線を下に移すと何かが動いている。さらによく見るとリスである。リスはメイト君が近づいても驚いた様子はなく、チョロチョロと走り回っている。そんな風にしてると轢かれちゃうよ~。

一周路は島の南東で崖崩れがあり、その部分は通行不能で迂回路が用意されている。迂回路を示す看板はずいぶんと丁寧で、一見の私にも迷う心配はない。迂回路がふたたび一周路に戻った頃、日が出てきたので島の名勝、筆島を見に左折する。

どうですこの道、北海道にもやまなみハイウェイにも負けませんぜといわんばかり。そんな早朝の快走路を、メイト君と私はトコトコと行く。
この道はずんずん行くと崖崩れの現場となって行き止まりだが、その途中で細い下り道に入ると、筆島を正面に据えた海岸へと向かう。

風が、強い。この道どうなっちゃうんだろう、いきなり舗装が途切れてついでに崖でドボン、なんてことにならないかしらと不安がっていたら、良く整備された駐車場に出た。

メイト君の後ろに、ニョキッと海から突き出ているのが筆島である。その名の通り筆そっくりだが、翌日島の火山博物館などで学んだところによると、ここは大島を作ったもっとも古い火山の1つだという。となればこの湾曲した海岸は、他ならぬ噴火口ということだ。この他に海底火山が2つ出来、島らしくなったところで新たに三原山が出来、御神火が吹き出に吹き出て、今日の伊豆大島となったそうだ。

A:筆島/B:波浮港
この駐車場、まことに気持ちがよい。夏には海水浴場にもなるのだろうか、トイレの他にシャワーなども備え付けられている。この手の公共施設と言えば、トイレは汚れところどころ壊れ、その周囲には、ばか者どもが放置したゴミやらいかがわしいものやらが、雨風にさらされて無残になってる、というのがデフォルトだ。
ところがここはそれとは違い、トイレも綺麗ならゴミも落ちていない。ならば島の方々が、精出してお掃除なさっていると見える。駐車場には立派なあずま屋も建ててある。景色の見事さを堪能しようと、ここでお茶と朝食にすることにする。

お茶と言っても寒いから、竹芝のコンビニで買ったコーヒーを、コンロを出して温めることにする。私は普段紅茶党なのだが、このような時のコーヒーの味がわからぬ男ではない。

景色はまさに値千金だ。びゅうびゅうと風は吹くものの、こんなひとときは他には替えられない気がする。そんな景色を眺めつつ、怪人黒ずきんと化した私は、パンをかじりながら熱いコーヒーをすする。

やや時間をおいて、筆島を去る。全島避難で有名になった波浮港周辺、島の南側を西へ。ここは動画をご覧いただけます。

波浮港を見下ろす高台から眺める。まさに天然の良港とはこのことだ。加えてこの湾もまた、伊豆大島を作った最初の火山の1つだという。

展望所の傍らにはお休みどころがあって、ご主人と思しきおきなが、開店前の掃除をしている。メイト君を停めるとこのおじいさん、おはようございますと挨拶する。私も丁寧に挨拶を返し、済みませんがと三原山の登山道を聞く。どう考えても開店には間に合わず、私がこのおじいさんのお客となる道理はないのだが、おじいさん丁寧に道を教えてくださる。
御礼を言ってこの場を去る。やはりここは三原山に登るとしよう。おじいさんの店を振り返りつつ、メイト君と私は島の西部、御神火茶屋の登山口へと向かう。

(つづく)

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