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すっかり湯だって、煙草を吹かし、点々と灯火がともる広大な夜景を堪能した後、長岡駅近くの宿へと向かう。
さすがはSくんが見つけてきた宿だけあって、安いしそこそこ綺麗で、駐車場料金も良心的だ。ま、どこの地方都市にもある、ごく普通のビジネスホテルである。
部屋に入ると、駅が目の前に見える風景、新幹線が出ては入る。在来線はガードの下とて、音はすれども姿は…窓から首伸ばせば見える。ただし自殺防止のためであろう、窓は首が出るほどには開かない。満員の埼京線みたいな体勢で首をくねらすと、ようよう一部が見えると言ったところだ。
バカバカしい話だが私は鉄ちゃんである。鉄ちゃんのおっちゃんとして、ここは良い部屋だ。
しばらく休んだ後、Sくんが酒屋に行こうという。すでにこの街を訪れているSくんは、よさげな酒屋を知っているようだ。
宿近い酒屋に向かう。なかなかオサレな作りとなっており、地元の地酒がこれでもかと並ぶ。様々物色するが、Sくんに買う気配はない。今は下見に止めておき、明日改めて買おうというわけだ。私は今夜の呑み料として、Sくん勧める日本酒の中ビン1本買って下げる。
酒屋を出てめしを食いに出かける。無論酒所に来て、めしだけおとなしく食って帰るわけはない。いわんや私は酒鬼といっていい酒飲みだし、Sくんもまた家族そろって大酒飲みという。
結構結構、酒も煙草もバクチも武道もやらない男は、ほんまもんの聖人君子を除き、いくら見た目や立ち居振る舞いがよさげでも、私にとっては悪い奴である例が多い。ゆえに敬さずして遠ざくべし、と思っているが、それら全部ドーゾいらはいのSくんは、私と気が合うわけである。
まずはSくんが過日呑んだ店に向かう。聞けば新潟の地酒をマスに詰め、飲み比べが出来るという。おっさんもうたまらない。
歩いて程なく店に至る。いらっしゃいませと迎えてはくれたが、どうも様子が変である。どうやら今夜は貸し切りらしい。
当てが外れて外に出る。どうします、とSくんが言うので、駅の方に行きゃ何とかなるんじゃないといい加減なことを言う。
んじゃそうしますかとぶらぶら歩く。始めと似たような店を覗けば、混んでて入れそうもない。すでに出来上がっている地元のおっちゃん連中を見て、この酒飲みどもめ、とチラと思うが、これほど理不尽な思いはない。
やれやれと思いつつさらに歩けば、どことなくチェーン店っぽい店がある。酒味の郷、いさり火である。少し覗いたSくんが、ここにしますかというのでここにする。これはSくんの特技だが、彼の鼻利きはたいがい当たる。鼻利きこそ人生の羅針盤だ。
それは生まれ持ったものか後天的かは知らないが、かつて私が苦労したあれこれを、そりゃ相当の苦痛は伴ったろうが、それでもひょいひょいと乗り越えて生きていくSくんを見ると、才能ってやつはすばらしいと思う。
席に根を生やして、まずは駆けつけビール1杯、加えて地元の魚、名産の厚揚げなどを取る。
魚がうまい店はまず悪い店ではない。肉と違って魚というのは、鮮度と料理人の腕がモノを言う。その点この店は合格で、海にほど近いから新鮮さは土地の利点というものだが、板前さんの腕は悪くないと見た。
ほどよく落ち着いたところで、次は待望の地酒である。
私は数ある日本酒の中でも、越後杜氏を特に好む。あたかも水のような、しかし水っぽくなく、いくらでも行けそうな雑味のなさが好きである。ただし東京のみならずどこでも見る、上善なんたらは高すぎる。ゆえに普段飲めるわけではないだけに、今日はとことん飲むつもり。

良い酒に、言葉は無用につき、しばらくは画像のみで。



いくら私が酒鬼だと言っても、さすがにこれほど呑めば酔っぱらう。同じくSくんも呑んでいる。
しかも越後杜氏だけあって、いくら呑んでもまだ入る。すっかりぐてんぐてんになったから、何を話したかちっとも覚えていない。まことに幸せなことだ。
1つだけ覚えているのは、酔っぱらってかどうか知らないが、北雪をそれだと気付かなかったことぐらい。
いい気分で宿に帰る。するとSくん、つまみとか買ってきましょうという。あ、お願いねと言い、おっさんはツアイス取り出し星を眺める。
しばらくしてSくんが帰る。これも買ってきましたと言って、うこんドリンクを手渡すが、こう言う気配りが出来るところ、リーマンとしても成功するだろう。ただ私としては、ちんこリーマンにはなって欲しくないと願うばかりだ。
さて二次会が始まるが、あれやこれやを、ああでもねぇこうでもねぇでなく、ああだこうだと話すうちに夜が更ける。この違いは結構重要だと思う、ヨーマン*として。
ついで調子に乗って、おっさんは秘技の観相術を披露する。対してSくんは四柱推命の研究家だが、当夜はそれを乞いそびれた。いつかこってり拝聴しよう。
酔いがさらに回ってわけがわからなくなり、おっさんはさっさと寝てしまう。
今思えば、とんでもなく緻密に詰まった一日だった。その〆が、何も覚えていないとは情けない。ま、しょうがないじゃないか、酒飲みだもの。(つづく)
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*ヨーマンとは、教科書的に言えば近世イギリスの独立自営農民だが、私はちょっと違う意味で使っている

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