越後長岡泥酔記(1)

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そろそろ、ブーツでないと乗騎に乗るのが寒い季節になってきた。

一葉落ちて天下の秋を知る風雅な人もいれば、私のようにスネ毛でそれを知るものもいる。
寒くなって恋しくなるのは、うまい魚と日本酒だ。ゆえに、若い友人のSくんと、越後長岡に旅することにした。

…というのは後日の脚色というもので、美辞麗句の美文がいかにむなしいかを思わせる。世の物書きが、私同様のウソつきとは限らないが、いわゆる紀行文というのは、旅を題材にとった創作と考えるのが適当ではないか? 少なくとも、歴史史料としては相当マユツバと考えるべきだろう。

実際はこうである。


あー、Sくんや。
なんです?
おっちゃんこのところヒマぶっこいててね。
じゃもっと商売に身を入れて、ボクのバイト代上げて下さいよ(と言われても仕方ないと九去堂が思った)。
その何だ、またどこかに出かけませんか。
いいですよ。でもボク、いま修論書いてるんです。
あ~君ならね、ぜんぜん心配ないから。チャチャッと書けるよ(手前ェの記憶がぼけてるのを幸い、いい加減なことを言う九去堂)。
…じゃ11月でいいですか。
うんうん、そうしよう。そんでね、おっちゃんもう何もかもメンドクサくなってるから、例によってプランとか手配とかお願いね。


…なんというクソおやじであろうか。メールなどの記録をまとめるとざっとこんな所だが、自分がずいぶんと無茶なことを言っていた事実を前に、やや愕然とする。

それはさておき当日である。早起きして旅のあれやこれやを合財袋に詰め込み、池袋から電車に乗ってSくんの最寄り駅に向かう。

土曜の朝とて、始発では急行も空いている。気に入りの端っこの席に座って、届いたばかりの温泉の本なぞを読んでいると、駅に止まるたびぽつぽつと乗客が乗ってくる。

となりは同年代のおっちゃんとそのコドモ、男同士親子水入らずでどこかにお出かけらしい。もっとも他人とそのガキなぞ、私にとってはどうでもいい存在だが、親が子供を慈しんでいる様を見るのは、やはり悪い気分ではない。

さる大きな駅では、大学生と思しき2人連れが乗ってくる。聞くとは無しに彼らの話を聞いていると、どうやら後輩らしい。これから連れ立って秩父の山奥を目指すようだが、仲良きことは美しき哉である。話のお題は就職のこと、それぞれの住まうところの風土などだが、選ぶ言葉と話し方にどことなく品があって、後輩であることを差し引いても、今時の若い者の良質なのは、やはりたちがいい。

Sくん家近くの駅に着く。閑散とした駅前に、程なくSくんが車に乗ってやってくる。一見没個性の銀色セダンだが、五芒星のマークでひときわ目立つ。

これから2日間、おっさんの運転手を務めねばならないSくんを前に、オッサンは図々しくタバコをふかしているが、いいですよ、と待ってくれるところが、Sくんのいいところである。

市街を抜けて給油して、圏央から関越に乗る。関越は学生時代、大学の行事で何度も乗ったし、北海道へツーリングに向かう一大ルートでもあった。ほとんど渋滞することもなくすいすいと進むが、前日に心配された空模様が、おおむね快晴なのはありがたい。

ところがそれだけに、我が天敵である団塊どもも、がさごそと出てくるわけで、途中寄ったSAのトイレには行列が出来ている。トイレ渋滞だよ、という団塊の言葉を聞き流し、こんな連中にかかずりあうのもバカバカしいとSくんと意見が一致したので、垂れもせずさっさとタバコふかして立ち去る。

週末ともあれば、バイク乗りも走っている。渋滞をすり抜けたり追い抜いたり様々だが、下品な連中とそうでないのとの差は明瞭だ。さるが木にぶら下がっているようなハンドルの連中は、さすがにバイク乗りでないSくんにも下手クソだとわかるらしい。

そんなこんなの会話を交わすうち、1130頃赤城高原SAに寄る。Sくん曰く、ここは景色が良いという。

なるほど高台にあり周囲は森林地帯だけあって、妙義や上越の山々がすばらしい。私は以前に立ち寄ったことがあるはずなのだが、いずれも北海道に向かう途中で深夜だったから、このような景色があるとは気がつかなかった。

赤城とか榛名とか、帝国海軍みたいな山々を、持参のツアイスで眺める。と、はるか下方から、SLの汽笛が聞こえてくる。そう言えばC61が半年ほど前にレストアされたという記憶がある。見れば下には上越線が走るから、今日は復活運転の日であるらしい。私は鉄ちゃんでもあるからわくわくもする。しかし残念ながら様々場所を変えても、音はすれども姿は見えない。

汽車はあきらめて再び走り出す。この先関越トンネルの入り口に、大清水のわき出るPAが有るという。おおむね正午、それなる谷川岳PAに寄ってみる。

見れば谷川岳にはまだ積雪が無く、まわりは見事な紅葉である。トンネル記念館などを通り過ぎ見しつつ、目当ての大清水を飲んでみる。

無論、水そのものはJRの駅で売っている大清水だと言ってしまえばそれまでだ(トンネルは違うが)。しかし現地で飲むのはやはり気分が違う。ここでペットボトルとか、入れ物を持ってこなかったことが悔やまれた。

水を堪能して関越トンネルに入る。抜ければそこは、越後のはずである。(つづく)

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