階級社会(すたちゅう編)

ロンドンのさる博物館でのことである。その日は気温も上がりお昼時とあって、お日様がぽかぽかと暖かい。私はつい、ベンチでウトウトと居眠りしてしまった。外国のホテル外で寝入るとは不用心きわまりないが、旅の疲れがたまっていたのである。

ふと、甲高い声に気付いて目が覚める。

見れば10歳前後の子供が数人、私の目の前にかたまっている。子供は交互にすたちゅう、すたちゅうと呼ばわり、私を面白がっている。どうやらマック店頭のドナルド人形のようなものを、私の姿から想像したようだ。いやむしろ本場だけに、マダムタッソーの蝋人形か。

図らずも観光地に来て観光資源になってしまったが、相手が子供ゆえ微笑ましい限りである。むしろポケモンの一種になったようで面白くもある。増してこの年頃の子供は、国境を越えてかわいらしい。どうやら先生に連れられて社会見学中のようだが、その人数は10人ほどである。

先生は2人ほど付いている。とすればずいぶんと手厚い教育環境と見える。子供は皆おそろいのトレーナーを着込み、ほどほどやんちゃだが先生のそばを離れて飛び回ることはない。おそらくはそこそこは余裕のある家庭の子供で、そこそこにしつけがなされていると見える。

そこそこと書いたのには理由がある。この博物館(ロンドン交通博物館)のみならず、先生に連れられたこれら子供の集団は、大英博物館でも郊外の名所旧跡でもいくつか見かけたが、それらは集団によって、厳然と言えるほど特徴が明確だったからである。すなわち、上流階級と、中産階級小金もちとである。

まず服装が違う。上流階級の子供は、学校は違えど一様にブレザー系の制服を着ている。対して中産階級は、すたちゅうキッズのようにトレーナーか、ジャンパーのようなのを身につけている。これは先生方も同様で、前者はトラッドな服装にトラッドな髪型、ずいぶん金もかかっていそうである。対する後者はラフな格好に加え、中には真っ赤な頭をした先生までいる。

しつけの程度も違う。すたちゅうキッズのかたわらには、緑のブレザーを着た上流階級の子供も集団でいたが、私を見て笑ったりはしていない。むろん、すたちゅうキッズも日本の子供、時にサル同然と見えるああいう振る舞いは一切見せないが、適度に騒ぎもするし動きもする。しかしブレザーズのような、絵に描いたようなお行儀良さは持っていない。

その現れの一つだろうか、ブレザーズの先生は生徒たちを、レディーとかジェントルマンと呼んでいる。すたちゅうキッズもそうなのかもしれないが、実際に先生がそう呼んでいるところは聞かなかった。加えてもう一つ気付いたのは、人種の構成である。無論両者とも、白黒黄色とそろってはいたが、上流階級には白いのが多い。すたちゅうキッズのおよそ1/3が、白以外と見える(黒が多い)のに対し、ブレザーズの漂白率はやはり高い。

最後にうむむとうなったのが、ブレザーズの顔つきである。上品で、金持ちそうで、そして賢そうである。小学生にしてこれである。しかもそれは、人種の白黒黄色に関わりがない。東京で電車に乗っていると、金のかかった子供の通学途中を見かけるが、ここまでの顔つきにはめったに出会わない。所詮日本の金持ちは小金持ちに過ぎず、いいところすたちゅうキッズでしかないということだろう。

ただし、それは悪いことではない。
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交通博物館で待ち構えるゲーリング閣下。戦時中ロンドンの交通を関係者がいかに必死に守ったか、1つの特設コーナーと複数の展示で表していた。

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